「俺、貫井(つらい)さん、ちょっと読んでるんだよねぇ」
「へえ。でもその人、「ぬくい」って読むんだぜ?」
でおなじみの(?)貫井徳郎氏の一冊。
すいません、『慟哭』も『プリズム』も読んでいません(じゃあ何を読んでいるのか)。
タイトルに惹かれて手に取ってみまして、読んでみたら何でしょう、全く違った感想を持った一冊でした。
最初は、いろいろな事件が連鎖的に起こる、連続殺人ものなのかな、と思っていたのですけれども、そうでもなかった。
本格なのか、ハードボイルドなのか、コメディなのか。
おおむね、コメに力を振り分けているような気がしますが。
月影市で探偵を営んでいる十村のところに、亡くなった恋人の妹がやってきて、友人のストーカー疑惑、さらには殺人事件の容疑を晴らしてほしい、と依頼を持ちかけます。
弁護士にでも頼めばいいところですが、どうやら恋人の妹、いや月影市の全員が、警察の月影署の署長をしているキャリアと十村が友人であることを知っているらしいのです。
その個人的なコネが、友人の疑惑を晴らすのに使える、と恋人の妹は思っていたようで。
ハードボイルドを一応気取っている十村としては、拍子抜けした気分ですが、探偵としての実績はないので、他にとるべき方法もありません。
署長に連絡を取ると、力は貸してやるから、十村にいろいろと調査をしろ、と依頼してきます。
どうやら署長は、現場の刑事のように聞き込みなどをしてみたいようですが、それが叶わず暇を持て余している様子。
ギブアンドテイク、で十村は調査に乗り出します。
そうこうしているうちに、容疑者である、恋人の妹の友人が、殺人事件の被害者の幽霊を見た、と言い出すし。
未解決の殺人事件があるらしいし。
刑事にはいたぶられるし。
いろいろあって、かつて恋人が「月影は恐ろしいところだ」と言っていた意味を噛みしめることになるのでした……。
うーん、面白かったです。
文章がうまいのでさくさく読み進められますし、ハードボイルドの基本が抑えられているので(そのパロディ具合も)面白いですし、徐々に謎が混迷していくところなんかはサスペンスフルですし。
面白いんです。
で、最終的に、これどうやって落とすのよ、と思っていたら、まさかの「アレ」だったという……「アレ」に言及するとあっという間にネタバレするのでやめときますが、このオチに最初は愕然としました。
拍子抜けというか。
むむ……しかし、改めて読み返してみると、きちんとその線に沿ってプロットが構築されています。
展開も不自然ではない。
何より、「なんでそんなことする必要があったの?」に対する説明がばっちり。
無理はあっても破綻はない。
うん、やっぱり面白い。
面白いんですが……貫井さんに期待していたものが違ったのかなぁ……やっぱ『慟哭』か『プリズム』を読まないとだめな気がしてきました。
どっちがいいんだろう……『慟哭』の評判が非常に高いのですが、テーマ性が高いと個人的にあんまり入っていけないもので……いやしんどくて……おいおい。
「「いえ、特に何も。もう捜査は打ち切られたのではないかとすら疑っています」
さすがにそんなことはないと思うが、事件発生直後の熱意が薄れているのは間違いない。やる気を失った警察よりは、おれの方が遥かに有能なはずだと意を強くした。」(p82)
あんまり引用するとからくりがばれちゃいそうです。
あ、本記事冒頭のやりとりは、実際にあった私と友人との会話で、私が大いに恥をかいた場面です。
今でもときどき「つらい」さんと読んでしまいます、「ぬくい」さんです。