べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『ケルトの封印』ジェームズ・ロリンズ

 

ケルトの封印 上 (竹書房文庫)

ケルトの封印 上 (竹書房文庫)

 

 

ケルトの封印 下 (竹書房文庫)

ケルトの封印 下 (竹書房文庫)

 

 一人ロリンズ祭り、ということで昨年末に読んだのですが、なかなかこちらのブログが書けないのでほったらかしにしてありました。

 

11世紀イングランド、国王ウィリアムの命令によって「ドゥームズディ・ブック(Domesday Book)」が編纂される。これは、イングランド国内のいわゆる「検地帳」なのだが、その音の類似さからか、密かに「ドゥームズディ・ブック(Doomsday Book)」、すなわち「終末の日の書」と呼ばれていた。この中には、赤い文字でラテン語の「荒廃した」とだけ書かれた土地がある。国王がなぜ、これほど厳密な国勢調査を行ったのかについては数多の議論があるが、「ドゥームズディ・ブック」の真実は歴史の中に埋もれていった。

 

現代、ヴァチカン。一人の聖職者が殺害された。そのとき、<シグマフォース>とも縁深いヴェローナ神父が近くにおり負傷した。死亡した聖職者が隠したものを、イタリア国防省警察のレイチェル・ヴェローナは発見する。螺旋の模様と、円と十字の組み合わせ(ケルト十字)の書かれた革の袋。中に入っていたのは、黒く変色した人間の指だった。

 

アフリカで行われていた実験農場では、遺伝子操作を行ったトウモロコシが栽培されていた。ヴィアタス(ノルウェーに本拠地を持つ石油化学企業)の援助を受け、ジェイソンの父ゴーマン米上院議員も協力しての実験だった。通常必要量の三分の一で栽培できるトウモロコシに、世界食糧事情への大いなる寄与が期待されていたが、突如として実験農場は襲われる。近隣の反政府組織によるものかと思われたが、実際には高度に訓練された組織だった。ジェイソンもまた殺害されるが、実験データは父ゴーマン上院議員宛にメールで送信される。

 

シグマの基地に呼び出されたグレイソン・ピアーズは、ギルドの暗殺者セイ・チャンの行方をクロウ司令官から伝えられていた。どうやらヴェネツィアで暗躍していたらしい。そのときグレイに、レイチェルから連絡が入る。叔父モンシニョール・ヴェローナが昏睡状態で、殺害された聖職者の残したものの秘密が事件と関係しているのではないか、ということだった。

 

 

さて、いつも通りにぶっ飛ばし気味のロリンズワールド、今回は、世界史を学んだことのあるメタラーなら、一度は「ん?」と思った「ドゥームズディ・ブック」が絡んできます。

他にも魅力的なのは、ローマクラブという(実在の)国際的シンクタンク、スヴァールバル世界種子貯蔵庫、干ばつに耐性があるとされたトウモロコシのDNAの変異(入り込んだ異物がトウモロコシのDNAに侵入している)、殺害された聖職者が探し求めていた聖マラキの謎(伝説的なアイルランドの聖人で、世界の終末までの152人の法王を予言した)……ここまでギミックを詰め込んで、世界中を舞台にストーリーを展開できるというのが素晴らしい。

覇権を築いた英国からつながるアメリカに生まれた利点を最大限に生かしていると思います(アメリカ人だけが、こういった話を書けるという意味ではありませんが、母語が英語で、情報集約がなされやすいアメリカにいる、ということは非常に有利なことだと思います)。

今回は、渋みを増したペインター・クロウも大活躍、それにも増して、シリーズを経るごとに好感度の上がっていくシグマらしからぬコワルスキーにも注目です(いいよね、こういうキャラって)。

セイ・チャンとレイチェルの、グレイをめぐっての葛藤やら心理サスペンスもなかなかのものです(ミスリードもお上手なことで……)。

 

と、<シグマフォース>シリーズはこれで5作目なんですが、ロリンズ先生(あるいは、現代アメリカ人)の好きなパターンがなんとなく見えてきました。

 

1)敵キャラの男はかなりの悪漢で、しかし筋は通っていて、さらに欠陥もある

2)そういう男には、たいてい謎めいた美女がくっついていて、これがまた影の深い女である

3)最終的にその美女が鍵となる

 

なんかもう、『スターウォーズ』も『インディアナ・ジョーンズ』も『ダイ・ハード』もこれで説明できる気がしてきました(いやいや)。

 

一人ロリンズ祭りはまだまだ続きます。