終わってませんでした、一人ロリンズ祭り。
ひとまずこれで一区切り。
本作は、<シグマフォース>シリーズとしては『マギの聖骨』(第1作)以前に発表されており、ペインター・クロウを主人公としたもので、日本での刊行は『マギの聖骨』より後になっています。
本来シリーズものとしての展開を考えていなかった単発ものを元に<シグマフォース>シリーズが創作されているようで、ナンバリングとしては「0」となっています。
大英博物館に勤務するサフィア・アル=マーズは、ある夜その勤務先が炎に包まれているのを発見する。どうやらその中心は、彼女の研究領域であるケンジントン・ギャラリー(大富豪キャラ・ケンジントンの肝いりで整備されたもの、キャラはサフィアの幼馴染でもある)のようだ。駆けつけると、原因不明のプラズマが発生したらしい。その中心は、隕石でつくられたラクダの像。古くから大英博物館に保管されていたが忘れられており、アラビアで発見されたことからケンジントン・ギャラリーに加えられていた。キャラの父親レジナルド・ケンジントンは、アラビアの遺物収集に積極的で、娘のキャラもそれを推進していた。レジナルドはある日、娘とともに狩猟に出かけたまま、一人戻ってこなかったのだが。
ペインター・クロウは、自身の技術の高さを買われてDARPA(国防高等研究計画局)の特殊部隊に採用されていた。今回の任務は、コネティカットでハッカーの中国人を狩ること。男はロスアラモスからプラズマ兵器技術のデータを盗み出していた。パートナーを務めるカサンドラ・サンチェスとともに、男が隠れているホテルに忍び込んでいたが、そのカサンドラの裏切りによって任務は失敗するところだった。なんとか任務を収めたペインターに、DARPAの上官であるトニー・レクターから次の指令が入る。目的地はイギリス、大英博物館。謎の爆発事件を調査せよ。
本作は、イギリスからアラビア半島に旅するという、<シグマフォース>らしい展開をするのですが、いつものグレイやモンク、コワルスキーがいないのでちょっと違和感があります。
ペインターも、なんか若いし(ちょっとだけ)。
ま、それはともかく、『アラビアン・ナイト』にも登場する謎に包まれた千の柱の都「ウバール」の解明がその主眼となっていきます。
○こちら===>>>
↑を参照。
『アラビアン・ナイト』、中東の伝説は、私はほとんど知識がなくて、非常に興味深く読むことができました。
ストーリーは、ウバールを示す遺物に、ナビー・イムラーン(イスラムにおける聖母マリアの父親)、幽霊のように消える女、反物質、といつもの感じの<シグマ>でちょっとほっとします。
欧米ではわかりやすいネタなんでしょうか、ナビー・イムラーン。
単発ものとして、大きなネタにわかりやすい反物質を持ってきた点はよかったと思います。
このあとに現れる様々なガジェットも、さすがロリンズ屁理屈大魔神(褒めてます)と拍手したくなりますね。
あ、そうか、今頃気付きましたが。
<シグマ>シリーズって、『スプリガン』に似ているんですね。
私が好きな理由がようやくわかりました(遅いな)。
本作では、オマーンからの移動に帆船が使用されます。
○こちら===>>>
↑のサイトで写真をご覧になれますが、「シャハブ・オマーン」というオマーンのスルタンが所有している船です。
その船がどうなるのかは、<シグマ>シリーズを読んでいる方なら大体想像がつくと思います(涙)。
私には、船の美しさというのがわからない(形容できない)のですが、本書を読んでさぞ美しかろうと思っていました。
写真を見てみると、確かにかっこいいですねぇ帆船って……私には描写も形容もできないのが非常に残念です。
というわけで、もしこれから<シグマ・フォース>シリーズを読んでみよう、という方がいらっしゃったら、こちらの『ウバールの悪魔』から始めてみるのもいいかと思います。
一人ロリンズ祭り、ひとまず閉会。
「石油はアラビアの富かもしれないけれど、水は生命の源よ」
サフィアは大学院生がこの事実をじっくり考える時間を与えた。アラビアにおけるこのような淡水化施設の重要性を知る欧米人はほとんどいない。中東と北アフリカでは、水利権と淡水の水源がすでに石油問題よりも大きな争いの温床となっている。イスラエルと、国境を接するレバノン、ヨルダン、シリアとの間での最も激しい紛争の一つは、イデオロギーや宗教を巡る争いではなく、ヨルダン渓谷の水源を押さえるための戦いなのだ。
しばらくして、クレイが口を開いた。「ウイスキーは飲み物で、水は戦うものである」
サフィアは顔をしかめた。
「マーク・トウェイン」クレイは答えた。
彼の鋭い直感に改めて驚かされ、サフィアはうなずいた。「その通りよ」(上/p311)
「一九五〇年台から知られていることだけれど、地球には蒸発と降雨という地表の水循環によって説明できる以上の水が存在する。地下深くに大量の真水が発見されたケースはいくらでもあるわ。巨大な帯水層が存在しているのよ」(した/p281)