べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『古城ゲーム』ウルズラ・ポツナンスキ

 

古城ゲーム (創元推理文庫)

古城ゲーム (創元推理文庫)

 

 

薄めの本を読んでいた反動か、分厚いものが読みたくなりまして。

オーストリアの作家の作品だそうで。

 

「サエクルム」ーーラテン語で「世紀」と名付けられた、ライブアクションロールプレイングゲーム

それは、14世紀の生活を体験する、という、TRPG(卓上でのごっこ遊び)の拡大版。

(現代の)医学生バスチアンは、ガールフレンドのザンドラに誘われて「サエクルム」に参加していた。

医学学会で高い地位を占めるが、女性にだらしのない父からのプレッシャーから逃れるためなのか。

ザンドラの美貌に参ってしまったからなのか。

非日常を体験する「サエクルム」の、かなり大掛かりなコンベンション(イベント)に本格的に加わることになったバスチアン。

主催者のパウルは彼を快く迎え入れ、「呪われた地」(との伝承が残る)でのコンベンションは始まった。

しかし、バスチアンには不安なことがあった。

コンベンションに参加する前日、謎の人物から警告の電話がかかってきたのだ。

「家にとどまれ。何かがおかしい」

そしてコンベンションが始まると、参加者が一人、また一人と姿を消していく。

「呪われた地」の亡霊の仕業なのか。

あるいは……。

 

大昔、TRPGに親しみながらも、イベントには参加したことのない身にとっては、かなりワクワクしながら読めました。

「サエクルム」の設定が非常に厳しくて(14世紀に存在しなかったものの持ち込みは禁止/運営側以外)、バスチアンはメガネも取り上げられてしまいます。

他のものは、わりときちんと準備していたのに(メガネがなかった、というのではなく、フレームが14世紀にはなかった素材だから、という理由でした)。

他のコンベンションと違って、「サエクルム」は5日の間ぶっ通しで、役になり切らなければならない(RPGはもともとそういうゲームです)というのは、かなり過酷です。

そして、人里離れた山の中、通信機器もなく、当然のようにやってくる嵐……なるほど、こんな方法で「陸の孤島」を作り出すことができるとは……日本ではなかなかやれない芸当です(そもそも、西洋ファンタジーにふさわしい場所っていうのが、日本じゃ見つからないでしょうからね……東洋ファンタジーものでならやれるか……ちょいと地味な感じがします)。

あ、ライブアクションRPG自体は、ヨーロッパでは実際に行われているそうで(「サエクルム」は不法侵入をかましているイリーガルな匂いの強いイベントですが)、年間で100単位のコンベンションが開かれているそうですよ。

そんなゲームの最中に失踪事件が起これば、運営の演出ではないか、と考えるわけですが……だんだんと雲行きが怪しくなっていきます。

真剣に役に入り込む、というゲームの性質から疑われるカラクリと、本当に事件が起こっているのではないかという混乱がサスペンスを盛り上げ、思いもよらない方向に話が展開していきます。

面白い。

何か前例があるのかな……と思って記憶を探ってみましたが、そうですね、似たような話はあるようなないような……極限状況に取り残される、という意味では『少年たちの密室』か……ちょっと違うな……あ、あれだ、うみねこのなく頃に……違うかな。

でも、『うみねこのなく頃に』がお好きな人には、一度読んでみてほしいと思います。

 

作者は、もともとは児童文学やヤングアダルト向け小説でデビューした方、ということで、この辺り日本のライトノベル作家からごっついものを書く萩原浩氏や米澤穂信氏辺りに重なるものを感じます。

ちょっと、他の作品も読んでみたくなりました。

おすすめ。

 

 

「なるほどね」バスチアンはまだ腹の虫が収まらなかった。「昔はこのうるさい蠅を追い払う道具はなかったのかい?」鼻先を飛ぶ蠅を叩き落とそうとしたが、さっと避けられてしまった。汗をかいためずらしい客の来訪がよほどうれしいのか、虫の大群が集まってきて、顔のまわりを飛び回まわるだけでなく、着地しようとまでした。それもバスチアンの目の前に。「去年はこいつらをどうやって退治したんだい?」

みんな、ただ肩をすくめた。

「退治などしない。こういうものだ、わが友よ」<小石>はいった。「慣れるが勝ち。蠅には対処しようがない」(p96)

 

 

体感型ゲームといったら、「リアル脱出ゲーム」が精一杯ですね……ああ、久しぶりにチャレンジしたい……。