古代史好きなので、もちろん邪馬台国論争も好きなのです。
で、それっぽいミステリーがあると、手に取ってしまいます。
どうやら作者は、『MASTERキートン』の原作者らしいです……すいません読んだことないです……『20世紀少年』と『ビリー・ザ・バット』は読んだんですけどねぇ……いや、老後にとってあるのかもしれない(違うと思う)。
で、てっきり長編だと思ったら、連作短編のようになっていまして。
登場する探偵役は。漫画編集者、ということで、オタクという言葉が世に広まる前から闇の世界の住人だった、という自負はありますので、興味はもちろんわくのです。
「消えたマンガ家」は、下書きだけ残して失踪した漫画家を探す、新人編集と、元編集(これが探偵役)の話。
その漫画家がデビュー作として描いたホラー漫画に、何かヒントがあるのではないか、と捜索が始まります。
「邪馬台国の女帝」は、人気の落ちた中年女性漫画家の新作として、邪馬台国を舞台に選んだ出版社に依頼されて編集についた醍醐(探偵役の名前)が、ロケハンをしながら邪馬台国のことをその漫画家に説明していく過程で、その女性漫画家の創作意欲に火をつけ、ついでに邪馬台国の場所を特定する、というお話(ちょっと違うか)。
「天国か地獄か」は、映画マニアでもある醍醐が出会った、映画評論家になりたい男とその子のために奮闘する話。
「闇の少年」は、「消えた漫画家」の続編。
どちらかというと、日常の謎系に分類されるものかと思いますが、あれかな、プロフェッショナル系日常の謎かな……意味がよくわかりませんね。
ある特定の職業の知識、経験などが前面に出てくる作品、それが警察であればミステリでも全く違和感がないのですが、別の職業だとなんだかちょっと違和感……本来捜査権限など持ち得ない専門家が探偵役を務める、というのは実際のところ、いろいろなパターンが使われていまして、まあ元々あちらの名探偵が必要以上にディレッタントに描かれていたところから分岐。細分化していったのかなと思うのですが、漫画の編集者、というのはなかなかない分野かな、と……。
漫画の原作者だけあって、読ませどころや描写は非常に映像的ですので、読みやすく、読み応えがある。
そして、材料の調理が上手いですね……うん、そう転ぶのかこの話、と思う……ああ、ミステリと書いてはありますが、ほぼ本格ではないので悪しからず。
ただ、ちょいちょい表現で引っかかりを覚えるのは、やっぱり漫画の原作者さんの文章だからなのか……好みじゃないだけかも。
いや、再読してみると、どのシーンでも読めるんですよね……読ませる力がある、というのはすごいと思います(……初読のときがちょっと退屈だと思ったのは、私の脳の特性だと思うので、まあ気にしない)。
「「編集長は、こう断言しました」醍醐がつづけた。「おまえはそれを、信念を曲げて日和ることだと思っているだろう、だけど信念は、曲げてもいいんだぞって」
「信念を曲げてもいい?」
「曲げてもいいどころか、曲げるためにあるもんだ。だけど柳と同じで、曲がってももとに戻るって」」(p113)
裏表紙に、醍醐のことを「傍若無人」と書いてあるのですが、そうでもないな、っていうのが私の読み込みの甘さでしょうかね。