短編集ということで購入。
ミステリ評論家の千街晶之氏が解説を書かれていたので、手に取った感じ。
「第五回新潮エンターテインメント大賞」を受賞されたのだそうです。
「アニュージュアル・ジェミニ」は、不思議な双子が登場する話。
両親からは双子と思われているその少女は、どうやら一つの魂が交互に入れ替わっているらしい、のです。
そこから生まれる違和感、すれ違いが、やがて事件に発展します。
「スモール・プレシェンンス」は、少し先の未来が予知できる、という男の話。
ただし、その少し先、というのがミソで、ほぼ5分。
それをどうやって有効に使えというのか(金儲けに使えそうで使えない)。
といっても気味が悪いのは確か。
友人に相談を持ちかけてみますが、真剣には聞いてもらえません。
そこで、それを実際に示してみると……。
「チョコレートチップ・シースター」は、水族館と農家だった祖母が好きな少女の話。
友人の切ない告白に、彼女はどんな結論を出すのか。
「ストロベリー・ドリームズ」は、小さな女の子の話。
ほぼひらがなで書かれているので、慣れるまでちょっとしんどいです。
友達が、洋服のポケットに手を入れてふくらませているのを不思議に思う女の子。
そこにはキャンディが入っている、と思っているのですが……。
「ザ・マリッジ・オヴ・ピエレット」は、コンビニ立てこもり事件の捜査に当たる刑事二人を主人公とした、正攻法な警察小説。
残忍な犯人は人質を殺害してしまうのですが、警察の突入班によって犯人もまた射殺されます。
これで事件は解決か、と思われましたが……。
「スペース・アクアリウム」は、最新の宇宙船を開発した博士と助手の話。
うーん、そうですね……SF好きだったり、SFっぽい話を書いたことがある人であれば、似たようなことを思いついたのではないか、というネタです。
「ピーチ・フレーバー」は、文字だけを食べて生きられるようになった、という男の話。
しかもどうやら、文字(あるいは本)によって、味が違っているらしいのです。
「コットン・キャンディー」は、大学生の青春ストーリー。
読んでいい気持ちになる話です。
「人間とは?」の問いかけ、青臭い解答、そういったものが全て、誰かのいつかに存在していたとしたらいいのにな、と思います。
「クレイジー・タクシー」は、女性の乗るタクシーに、強引に乗り込んできた男との珍道中。
決して愉快ではないことに、男は拳銃を持っていて、何か企みがあるのか、女性に突きつけたのでした。
じんわりと味わいのある短編あり、正統派ミステリあり、さらに楽しめる趣向あり、となかなか凝った一冊になっています。
私は好きです(ただ、ちょっと地味かな……)。
地味でも短編が好きな人、「奇妙な味」系の短編が好きな人、明示されない隠された要素に気づいて一人ニヤリとしたい人、などにおすすめです。
あとは、千街氏の解説を読んでくださいな。