べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『武家屋敷の殺人』小島正樹

 

武家屋敷の殺人 (講談社文庫)

武家屋敷の殺人 (講談社文庫)

 

 

どんなことでも、やりすぎればそれは歪になり、一方でその歪さに惹かれる人もいます。

変なものが好きな私、変すぎるものはそれほど好きではない私、このちょうどいい変なもの、というのがなんなのか……ぴったり当てはまるものに出会うのは難しいですが、今回は結構な精度のような気がします。

というわけで、『武家屋敷の殺人』ですが、著者は島田荘司御大と組んだ長編作品でデビューされた方のようで、自身の作風を「やりミス(やりすぎミステリ)」と呼んでおられるそうです。

……。

まずい、あらすじがろくに書けない……とりあえず、結構な分厚さで、情報量が非常に多く、提示される謎とその解決がかなり高速で進んで行くので、ついていくのが大変です(そうですね……超テクニカルでハイスピードなプログレデスメタルを聴いている感じ……ってよくわかりませんな)。

捨て子として施設で育った女性が、自分の生家を探すために、弁護士の川路のもとを訪れます。

彼女の叔父が残した手紙(生家を示す情報はほぼない)と、その叔父が書いたのか、異様な内容が並ぶノート。

とぼしい手がかりから生家を見つけるため、川路は知り合いの那珂邦彦に助力を求めます。

どこか暗い雰囲気のある那珂邦彦は、推理力は抜群なようで、ノートの内容を読んでそれを解釈し、生家を発見します。

そこは、何代も続く武家屋敷でした。

依頼人の家族は無事見つかったのですが、そこからさらに過去の殺人事件の謎が提起され、さらには武家屋敷の先祖の事件(?)まで俎上に乗せられますから、まあ「やりミス」の名に恥じない謎と回答の連べ打ち、ドリームシアター組曲みたいな感じです(?)。

そこに、通奏低音のように挟まれる、別の物語が人間の影と哀れさを感じさせます。

様々なトリックの組み合わせが用いられていますが、個人的には……ああ、書くとネタバレだ……そうですね、ミステリの歴史の中では結構昔から使われてきた手法、とある怪奇をいかに現実に引き戻すのかというある意味ではミステリの王道のような手法が好きなもので、冒頭から漂う異様な雰囲気をばっさばっさと斬りまくる感じで解決していくところは爽快です。

そこからさらに話が続いていくところにまた凄まじさがありますが……うーん、そうだな……ちょっとキャラクタの描き方が足りない、という印象があります(私の、ですが)。

これをやりすぎると、「やりミス」としての側面が薄れてしまうような気もするので、塩梅としてはいいのかもしれないですが、京極夏彦氏とまではいかなくとも、もう少し掘り下げと対比があってもよかったのかな、と思います。

私は、島田荘司御大の仕掛けるネタを「超絶物理トリック」とか呼んでいるのですが、そこには心理的、あるいは認識論的な仕掛けのほうが多くて、「んなアホな」と思いながらも納得させられてしまう、という……そんな雰囲気が確かに本作にもあります。

その、「んなアホな」の部分、擦り切れた本格ファンが早々に気づいてしまうような部分を、いかに回避するのか、またトリックに取り込んで幻惑するのか、そうした技術が試されていると思いますので、大変です。

本作では、その部分が結構うまく運んでいるのかな、と思いますが……どうなんでしょう。

井上真偽氏といい、本格を極端に推し進めるやりすぎな作品が増えてきているんでしょうかね……いや、ありがたいことですが(一方で、有栖川先生みたいな、純喫茶みたいな本格も大好きなんですよ)。

何作か追いかけたいと思いますが……ネタバレせずにレビュー書けないからなぁ……ああでも、「確かにやりすぎだわ」ということくらいは書いてもいいでしょうかね。

最後まで、油断なく召されよ、と。