あれ、下手すると一年前に読んだのかな……というわけで、英国四大女流ミステリ作家と呼ばれた(らしい)アリンガムさんの短編集です。
アルバート・キャンピオンという名探偵が活躍するシリーズもので、日本独自の編集による第2集。
短編好きなもので、短編集にはつい手を出してしまいます。
収録されているのは、
「綴られた名前」
「魔法の帽子」
「幻の屋敷」
「見えないドア」
「極秘書類」
「キャンピオン氏の幸運な一日」
「面子の問題」
「ママは何でも知っている」
「ある朝、絞首台に」
「奇人横丁の怪事件」
「聖夜の言葉」
「年老いてきた探偵をどうすべきか」
の11編。
1930年代から50年代にかけて書かれているものなので、昨今のミステリやらに慣れ親しんだ読者(私のことですが)には、ちょっとインパクトが足らないかなとは思いますが、流麗な文体とイギリスっぽいペーソスにニヤニヤしちゃうかもしれません。
キャンピオン氏は、上流階級とのつながり、人脈が深く、事件自体もその関係で起こることが多いので、それが鼻につく方もいるかもです(が、それもイギリス的な感じがして、私なんかはあまり気になりませんが)。
表題作の「幻の屋敷」は、キャンピオン氏の親戚などが登場するのですが、エキセントリックかつなかなかのグダグダ具合で、メインの「存在しない住所の屋敷」を巡る謎よりも、そっちの始末のほうが面白かったりします。
「見えないドア」はごく短い話で、トリック自体は成立しますが、それがなかなか露見しない、なんてことがあるのかな、と思いました(切れ味としては抜群です)。
「極秘書類」は、中央官庁の秘密書類と思しきものを巡る話で、ちょっとしたロマンスが絡んでいますが、IRAなんてものがさらりと出てくる辺りに時代を感じます。
「面子の問題」では、キャンピオン氏は脇役(……っていうのかな……)で、倒叙ものに近く、これもごく短い話なのですが、いい感じにオチているのが理想的でしょうか(O・ヘンリーとか、サキとかの、お見事な感じ)。
「ある朝、絞首台に」は、結構骨太な本格ミステリですが、イギリス人以外にはちょっとわかりづらいものがあるかもしれないです。
「奇人横丁の怪事件」には、火星人の話が登場します(いや、それだけじゃないですが)。
「聖夜の言葉」は、犬好きにはたまらない一編でしょうか(すみません、猫派なもので)。
こうして思い返すと、確かにミステリとしてどうなのか、とは思ったりもしますが、独創的な着眼点と展開で楽しませてくれました。
短編の名手は、それぞれの色が濃く出ますよね。
「相も変わらず、シャーロット大伯母はおっかなかった。小柄ながら、針金のように強靭で、鋭くとがった鼻と鳥のような目をしている。もう八十歳近いことはたしかなのだが、身のこなしや容貌を見るかぎり、それより二十歳は若い感じだ。」(p92)
イギリスの上流階級にはこういう人がたくさんいるイメージです(……短編集なので、下手に引用するとネタがバレるんですよね……)。