べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『大癋見警部の事件簿』深水黎一郎

 

大癋見警部の事件簿 (光文社文庫)

大癋見警部の事件簿 (光文社文庫)

 

 

深水黎一郎さんは好きなんですが、『ウルチモ・トロッコ』以降の傑作と言われている『ミステリー・アリーナ』とか読んでいないのでなんとも語れません……。

短編集、ということで購入しています。

芸術関係の博覧強記である深水黎一郎さん、よくそんなこと知っているな、思いつくな、という感じと、文章で遊ぶ、という稚気溢れる部分と、どちらが好きかによって本作の評価も変わる……のでしょうか?

連作短編ではあるのですが、主人公たる大癋見警部(事件解決はしない、ナルコプレシーな、ややメタな人)が出てこないのもあったりします(代わりに別のシリーズキャラである海埜警部補が出てきたりします……まあ警視庁の刑事なので登場しても不思議ではないのですが……)。

何故連作なのか、といえば、本格ミステリ本格ミステリー」の様々なギミックを用いて、それらを逆手にとってお手玉するような話ばかりだからです……いろいろ前例があるわけですが(東野圭吾さんとか、鯨統一郎さんとか)、私も本格ミステリ好きとしては人後に落ちない自負がありますので、というか単にパロディとか好きなので、買っちゃいました(多分……何しろ2年前のことで……)。

短編なので、あんまり中身を書いてしまうと興を削ぎますので、どんなネタが使われているのか。

チャプター1は「ノックスの十戒」。

某ゲームのおかげで、ひねくれた感じに広まったのではないかと心配になる、ロナルド・ノックスが(皮肉交じりに)考えた、本格ミステリのルールの集合体の一つ、です。

なんで有名なのかといえば、「チャイニーズを登場させてはいけない」って一文からですが……法月綸太郎氏の本格ミステリSF、その名も『ノックス・マシン』を合わせて読んでいただけるとなお面白いかと思います(引き合いに出す本か?)。

 

ノックス・マシン (角川文庫)

ノックス・マシン (角川文庫)

 

 

チャプター2は「アリバイ崩し」。

ここでは、別の作品でも氾濫させて喜んでおられた、明治〜昭和初期の、外来語に漢字を当てたあの表現が乱れ打ちです(真相と関係しているのかはともかく)。

うーんと……これを似たようなことを思いついたことは、あります(ほら、みなさんご存知の、明治時代のあれ……)。

 

チャプター3は「密室殺人」。

見取り図が出ます。

そして、某大説を読んでいると、すぐにネタが割れます(深水氏はご存知なかったようです)。

 

チャプター4は「叙述トリック」。

そう書いてある以上、これ以上書けません。

 

チャプター5は「レッドへリング」。

見立て殺人が出てきますが、「レッドへリング(赤い鰊/あからさまな偽の手がかり)」がメイン……なのかな……。

まあ、なんでしょう……クリスティっぽいのかもしれません。

 

チャプター6は「ヴァン・ダインの二十則」。

ノックスの十戒」と並ぶ、本格ミステリにおけるルール集の一つですね。

二十もあるので覚えられない、というオチがつきやすいです(?)。

……あ、違った、「ダイイングメッセージ」の話でした。

まあ、「ダイイングメッセージ」については、霧舎巧氏の『ドッペルゲンガー宮』を合わせて読むことをお勧めします。

……あ、違った、『カレイドスコープ島』か。

 

 

チャプター7は、「後期クイーン問題」……というか「毒」……うん、まあなんでしょう、この辺りからくだらなさへのエンジンがかかってきた感じがします。

 

チャプター8は、「お茶会で特定の一人だけを毒殺する方法」……手品でいうところの「フォーシング」というやつです……かね?

 

チャプター9は……なんでしょうねこれは……えっと、とにかく、複雑怪奇インフレーションに陥って久しい本格ミステリ読者頑張れ、という応援ソングみたいなものだと思います。

 

チャプター10は、再びの「見立て」。

一回りしたら、比較的穏当なオチがついた、という感じです。

 

チャプター11は、てんこ盛りですが、ネタが「青森のキリストの墓」というだけでわくわくします(『ムー』っ子なもので)。

バールストン先行法については覚えておきましょう(いつか使えるかもしれません)。

 

本格ミステリに初めて触れる、というかたにはお勧めできませんが、もし読んでしまったら、ここから黄金期まで遡って様々な本格ミステリを堪能できるということですので、羨ましい限りです。

ただ、本格ミステリの基本、というにはちょっと飛ばしすぎなところもありますので、まずは東野圭吾氏『名探偵の掟』のほうをお勧めしておきます。

 

名探偵の掟 (講談社文庫)

名探偵の掟 (講談社文庫)

 

 

ちょっと作者と笑いのツボがずれているのか、今ひとつなネタの切れ味、と思ってしまう作品もありました。

よく短編にここまでの情報量を詰め込めるものだと呆れつつも感心してしまいました。

 

……正直、頭が働かない状態(眠い)でこの記事を書いているので、内容についての責任は持てませんが、面白かった、ということだけ改めて書き添えておきます。

面白かったです。