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読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『柳生十兵衛秘剣考 水月之抄』高井忍

 

柳生十兵衛秘剣考 水月之抄 (創元推理文庫)

柳生十兵衛秘剣考 水月之抄 (創元推理文庫)

 

 

時代小説は読みません。

時代劇は好きなので、読まず嫌いなんですが、なにぶんそれほど時間がないので。

ですから、「捕物帳」系のものしか読んだことがありません(『半七捕物帳』とか、『新・顎十郎』とか、本当に少しだけです)。

ミステリ要素が絡まないと、なかなか手が出せないんですね。

 

柳生十兵衛秘剣考 水月之抄』は、前作と同様に、剣豪としては日本での人気を宮本武蔵と二分するであろう柳生十兵衛三厳と、男装の剣士毛利玄達を主人公とした、一風変わった時代物ミステリーです。

しかも十兵衛は、剣術流派に伝わる秘剣や剣豪たちにまつわる謎を、論理的に解明してしまう、という名探偵の役割を背負っているのです。

十兵衛の人物造形は、山田風太郎氏のシリーズに負うところも大きいのではないか、と思います(隻眼ではありませんが)。

飄々として、めったなことでは抜かないが、滅法腕は立つ。

腐れ縁で付き合うことになる毛利玄達は、剣の腕こそそこそこですが、手裏剣がうまい。

こんな二人が流浪の先々で解き明かす謎は、一刀流小野次郎右衛門の秘密、諸岡一羽流の内部抗争と密室殺人(!)、そして二階堂流平法の秘剣「心の一方」。

剣豪好きにはたまらないネタであり、ミステリ好きにも満足できる作りになっています。

特に、諸岡一羽流に関する密室殺人は、極めて有名な「あれ」が使われていながら、非常に日本的な処理をされているところが慧眼ではないかと(いえ、きっと誰もが思いつくのですが、なかなか動機とマッチングさせづらいものなので)。

横溝の『本陣殺人事件』が、日本家屋における密室殺人を具現化させた、と言われることとは別の意味で、日本的だと思います(本格読みなら、すぐ気づきますけど)。

「心の一方」の謎のほうは、話としては面白いのですが、解決がちょっと残念かな……。

 

高井忍氏は、他にも歴史上の有名な事件(巌流島の決闘、鍵屋の辻の敵討など)を題材とした『漂流巌流島』や、琉球を題材にとった壮大な連作『蜃気楼の王国』など、独自の視点で歴史にスポットを当てた良作があります。

そういう意味では、鯨統一郎氏の血統、と言えるかもしれません(あちらよりは、人を選ばない作風かな、とも)。

 

蜃気楼の王国

蜃気楼の王国

 

 

特に『蜃気楼の王国』は、「源為朝琉球王朝の始祖になった?」「源義経はモンゴルに逃げてジンギスカンになった?」というような、我々の好きな「偽史」を題材に、琉球王国の特性を冷徹に浮かび上がらせる名作です(しかも、登場人物がまたいいんです!)。

短編のお好きな方は、是非とも読んでいただきたいと思います。

 

 

「水は月の影を宿すものなり。鏡は身の影を宿すものなり」(p151)