というわけで、『悲しみのイレーヌ』から始まった(?)、カミーユ警部シリーズ第二弾、昨年バカ売れした『その女アレックス』を読了しました。
映画化の話も進行しているらしいです。
アレックスは30歳の美女だ(本人がどう思うかはともかく)。
体型が変わりやすいので、節制している(魅力的な体つきをしているが)。
いろいろなウィッグで自分を装い街に出る。
レストランに行けば、彼女に見とれる男も多い。
そして彼女は誘拐された。
さらに、荒々しくけばだった木製の檻に入れられ、身をかがませた体制で吊るされた。
彼女を誘拐した男は言った。
「お前が死ぬのを見たい」
失意のどん底から立ち直った(かに見える)カミーユ・ヴェルーヴェン警部。
だが、過去の死を扱う事件しか引き受けられなかった。
誘拐事件なんてもってのほか。
それでも、担当するものがいなければ、お鉢が回ってくる。
現場には、かつての部下であったルイがいた。
ル・グエン部長の計らいだろうか。
ともかく、カミーユは戦慄するような犯罪の現場に戻り、そしてその嗅覚を働かせる。
現場から逃げた車、監視カメラの映像。
その間にもアレックスは衰弱していく。
吊るされた檻の中では体が伸ばせず、関節が拘縮し、神経を痛めつける。
排泄は垂れ流し。
食事も与えられず、格子の間から手を伸ばすと、ぶら下がったカゴには水の入ったペットボトル。
それから、ドッグフードらしきもの。
しかたないのでアレックスは食べた。
しかし、どうやらそれはアレックスのためのものではないようだった。
その場所にはネズミがいた。
ネズミが餌を食べ終えたとき、次に求める餌はなんだろう?
犯人を突き止めたカミーユたちだったが、あと一歩でその手をすり抜けていった。
しかし、被害者が監禁されていた場所はわかった。
現場に急行し、苦労しながら入り込んだ先には、すでに被害者はいなかった。
逃げ延びたのだ。
カミーユは釈然としなかった。
結局、その女が誰なのかがわからなかった……。
前作『悲しみのイレーヌ』に比べればあらすじの書きようもありますが、プロットを明かした時点でいろいろネタバレするので、この辺りで。
三部構成になっており、第一部の監禁描写もさることながら、第二部の描写が結構しんどいです。
それでも、第三部に入って繰り広げられる怒涛の解決編と伏線の回収、そして結末……いえ、この結末のネタは、いくつか前例があると思うのですが(ぱっと出てきませんし、出てきたとしても書いたらネタバレするので書きません)、こう、なんといいますか、ここまで複雑な感情を起動させるのは珍しいのではないか、と思います。
快哉を叫ぶでもなく。
そんなのありかと怒るでもなく。
第一部と第二部の落差の大きさが、さらに第三部で裏返り、アレックスという女性に対する我々の感情を翻弄します。
そう、ネタとしては新しくはないんですが、それでも読ませるのは圧倒的な筆力と練られたプロットなのでしょう。
売れるわ、こりゃ。
改めて、パラパラと読み返しても、混沌とした吹き溜まりのような想いが浮かんできて、なかなかのしんどさです。
それでも、確かに、面白い。
他の作品でもこのレベルなのか、このシリーズだからなのか。
ちょっと追いかけたくなりましたが、まぁしばらくは売れるからいいでしょう。
「これは”少女(フィエット)”ですね」ルイが横から写真をのぞいて言った。
「なんだと? どう見ても三十は超えてるだろうが」
「いえ、女性じゃなくて檻のことです。”少女”というんです」(p111)
あまり引用するといろいろバレていくので……。