べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『七回死んだ男』西澤保彦

 

七回死んだ男 (講談社文庫)

七回死んだ男 (講談社文庫)

 

 

今さら?の西澤先生SF本格シリーズ。

いえ、タイムリープものっていうのが嫌いな私は、そういった映画やらがもてはやされているのを見て、一応読んでおかないとな、と思いまして。

タイムリープとソリッドシチュエーションホラーっていうのは、オチが定型化しているので、嫌いなんですよね(そんなこといったら本格ミステリのほうが定型化しているだろう、というご指摘はもっともな話です……まあ、単なる好き嫌いで)。

主人公の久太郎は、自身が「反復落とし穴」と呼ぶ体質の持ち主で、夜中の0時からの24時間を繰り返し体験してしまうことがしばしばあります。

繰り返しの回数は決まっていて、9回。

9回が終われば、自動的に本来の時間の流れに戻ってくる、らしいのです(最後の9回目が、本当の世界として固定される、とでも言えばいいのでしょうか)。

間の7回分は、何をしても巻き戻されるので、その間にその1日の情報をたくさん集めておき、9回目で不思議なことを起こしたり、1回目の現実を全く改変させて固定させてしまうことも可能。

何か文句をつける必要はなく、「そういうもの」なのですから納得するしかありません(その体質についてせまるSFやサスペンスでもありません)。

で、さすが西澤さんと思ったのは、久太郎がやたら老成しているのが、この繰り返し体験によるもの、としているところ(月に1回起きるとすると、1年が96日分多いわけで、4年でほぼ1年、16歳なら20歳くらい、と考えてもいい……ということと、「反復落とし穴」を便利に使って現実を改変してみても、結局のちにつながることはなく、虚しい……)。

キャラ設定が巧み。

で、その久太郎が、自分の祖父が殺害される日に「反復落とし穴」に陥ってしまい、なんとか祖父が殺されるのを防ごうとする……というのが本書です。

状況設定としては、祖父の遺産をあてにしている親族が集まっての新年会、若干認知症が始まっている祖父は、全国チェーン展開する事業を誰に残すのか、その新年会で毎年遺言状を書き換える、という結構トンデモなことをしでかします(しかも、人の区別があんまりできなくなってきているので、決まった室内着を着せられる、という)。

すごいですよね……タイムリープ能力者がいて、世界を救ってもいいはずなのに、起きるのは遺産目当てのドロドロ2時間サスペンスな世界。

このギャップが、西澤さんらしい諧謔かな、と思います。

で、タイムリミットサスペンス(9回目までに、祖父が殺害されないですむ方法を思いつく)と、ガッチガチのパズラー(1回目に祖父が誰に、どのように殺されたのか、謎を解くことで、2回目の事件を防ごうとする)が融合しており、その具合がまた絶妙なので、面白い。

うん、映像作品で見せられるとちょっとしんどいのかもしれませんが、タイムリープものなんてそんなもんだしなぁ……どうだろう、誰か映像化しようとは思わないでしょうか(壮大なSFガジェットに対して、舞台があまりに俗っぽすぎますかね……やっぱ未知の生物と戦わないといけないかな)。

西澤さんですので、途中ではコメディ要素も多く、久太郎も名探偵ではなく、基本的には普通の高校生なので、「反復落とし穴」で得られた情報をうまく使いこなせなかったり……選ばれたヒーローではないのですね(地味……でもいい)。

うーん、何か引用しようと思ったけど、あんまりないな……多分、楽しんでページをめくってしまったからでしょう(後ろのほうのページを引用すると、簡単にネタバレしますしね)。

面白かったです。

もともと、西澤さんの<タック&タカチ>シリーズは大好きで、あんな青春パズラーを書いてみたいなぁ、と思った時期もありました。

一方で、SFミステリのほうにはどうしても食指が伸びませんで……SFは好きだし、本格も好きだし、SF本格ミステリも好きなのに、どうしてなんだろうな……自己分析もろくにできませんが、とにかく、もうちょっと早く読んでおけばよかった、と思った次第。

またちょっとずつ西澤さんを読み進めていこうか……そういえば<タック&タカチ>シリーズは、新作出ているんでしたっけ?