私には、発売しているのを見たら脊髄反射で購入してもいい作家さん、というのが何人かいまして(ハードカバーでもためらうな!)。
そのお一人が、ノリリン(勝手にそう呼んでいます)こと法月綸太郎先生です。
新本格世代にあって、圧倒的に寡作。
一時は、リアル「エラリー・クィーン」のように、深淵にはまり込んでしまったのではないか、というほど懊悩する名探偵(と作者)に心配しきりでした。
それも、『生首に聞いてみろ』以降は、比較的コンスタントに(比較的)新作が発売されており、ファンとしてはうれしい限りです。
法月先生といえば、日本の二大「エラリー・クィーンの後継者」の一人(勝手に呼んでいます)。
もう一人は、有栖川有栖先生ですが。
作風を継承しているのは有栖川先生だと思います。
法月先生は、生き様、でしょうか(?)。
そんな法月先生が、講談社のしかけた子どもたちのための「ミステリーランド」というシリーズで生み出した<怪盗グリフィン>。
系譜を辿ればもちろん、アルセーヌ・ルパンに行き着くのですが、その姿勢はどちらかといえば<怪盗ニック>ですね(ああ、偉大なるホック先生!)。
今回、<怪盗グリフィン>が盗みを依頼されたのは(彼は「あるべきものを、あるべき場所に」が信条の怪盗なのです)、SF作家P・K・トロッターの未発表原稿「多世界の猫」を盗み出すこと。
依頼してきたのはスタンフォード大学のケンドール教授。
彼がいうのは、その原稿は、トロッターのものなどではなく、彼らの研究室が開発した「物語自動生成アルゴリズム」がトロッターに似せて生み出した「贋作」だというのです。
作者(プログラムをそう呼べるのであれば)の元に戻すのが信条に適合していると考えたグリフィンは依頼を受けますが、 そこから事態は意外な方向へ向かいます。
トロッターが生前告発した動物虐待の事件、それは裏でアメリカの情報部が動いていたのではないかと考えられていました。
<シュレディンガーの猫>を再現するために、何千匹もの猫が「あの」開けると青酸ガスが飛び出す実験箱に入れられている、というのです。
しかもそれは、並行宇宙にさえ関係しており、このあたりからいよいよ物語は、ミステリなのかSFなのかわからなくなってきます。
小説とSFを絡めた『ノックス・マシン』という作品が、法月先生にはあります。
こちらは、SFを舞台にして、本格ミステリ(かの悪名高き「ノックスの十戒」)を題材にしたものでした。
一方『怪盗グリフィン対ラトウィッジ機関』はちょうど反対で、ミステリを舞台にして、SFを題材に語られる物語なのです。
こういうミクスチャーなものが法月先生の好みだとは、『ノックス・マシン』を読むまでは思いませんでした(『パズル崩壊』が好きなので、SF好きなんだろうなぁとはぼんやり思っていましたが)。
新本格第一世代である、有栖川有栖先生、綾辻行人先生、二階堂黎人先生、法月綸太郎先生。
みなさん、ミクスチャーを自在に扱われる、非常に優れたストーリーテラーなのですが、こういうSFとの融合は二階堂先生が得意とされていると思っていました。
が、法月先生、素敵です。
こういうのが好きなんです、私。
もともとは結構癖のある文体だったのですが(『密閉教室』)、『雪密室』からは一気に洗練され、トリックではなくロジック、のパズラー全開になってからは、どの作品も一捻りある素敵小説。
ネタがもう、私好みでして。
「エラリー・クィーン」好きなら、当然チャールズ・ラトウィッジ・ドジソン(ルイス・キャロル)からチャールズ・バベッジにつながり、そこから文章自動生成プログラムに行きますよねぇ……(?)。
似たようなネタで、ライトノベルを書いたことがあります。
○こちら===>>>
もうネタがモロ被りで笑っちゃいました(そして、ネタの処理の仕方が天国と地獄のように差がある、という絶望感……いや、別に絶望してませんけども)。
というわけで、法月先生ばんざーい!
早く新作書いてくださいねー!!