とある縁がありまして、↑『銀の系譜』というお芝居を観てきました。
私は演劇のことはよくわかりませんし、お芝居について論評することはできませんので、感想ということで。
リリパットアーミー、という劇団さんは、かつて中島らも氏が在籍していたこともあるそうで(と書きながら、私は中島らも氏のことをよく知りません)。
大阪、作中でも言及されるところからすると、玉造の辺りにあった教会(プロテスタントですが、フィクションでしょう)と、東洋一の軍事工場が主な舞台となります。
玉造には、
↑こちらのカトリック玉造教会があります(作中では、登場人物のセリフとして出てきます)。
背景としているのは、細川ガラシャの話と、前大戦中に弾圧されたというホーリネス派の話。
細川ガラシャはあまりにも有名なので、私がどうこう書くこともないですが、夫の留守中に侵攻してきた敵軍につかまることをよしとせず、配下に自らを殺させた(カトリックなので自殺はできません)というエピソードがあります。
ホーリネス派のことはよく存じ上げませんでした。
物語は、ガラシャが部下によって命を落とすところに始まり、ついで戦中、大阪のとあるプロテスタントの教会で牧師補を務める、寺の息子を主人公として動き出します。
教会の裏に越してくる美しい女性とその弟、軍事工場で働く女工たち、徴兵検査から見る日本男児の尊厳、危険思想とされるホーリネス派の教え……といった要素が渾然一体となって、最後に見せる風景とは何なのか……。
以下、ネタバレと感想です。
私はよく本を読む(読み流す)のですが、基本的に淀川長治方式を採用しているので、どんな本であろうと「何らかのいいところがあるだろう」と探し出す貧乏性です。
畑違いの映画、音楽、お芝居などには、あまりそういったものは求めていません。
というわけで、まずはよかったな、という部分から。
1)みなさん、お芝居が上手だったと思います。あ、素人が何を偉そうに、と思われるでしょうが、嫌な人は嫌な感じに、いい人はいい感じに見えたので。ただ、主人公の牧師補さんのキャラクターだけが今ひとつ掴みきれませんでした。そういうキャラクターなのかもしれないです。
2)クライマックスで、その牧師補さんがある悟り(キリスト教ですので、天啓というべきですか)を得るのですが、その唐突さが私には好ましかったです。宗教的な開眼とか大悟というのは、概ね突然、意味もなく訪れるものだと思っています。ただ、それを物語の中で見せることの意味までは、私にはよくわかりませんでした。
……え〜、あ、以上ですね、よかった部分は。
いや、あくまでも素人の感想ですから(金払ったし)。
で、続いて今ひとつな部分を。
1)長い。
2)長い上に、ストーリーが平坦。熱がない。感情的に、どこで盛り上がればいいのかわからない。牧師補さんが何かを悟る、という↑クライマックスの部分がそれなんでしょうが、そこまでの部分で振られる伏線が曖昧すぎる。サスペンスがほとんど感じられない。それっぽいシーン(ホーリネス派の関係者がどんどん捕まっていく)はあるのだけれど、それが牧師補さんに迫っていく感じがほとんどない。純文学的に楽しめばいいのだとしたら、お笑いパートが多すぎる。あんなにいらない。舞台でやらなくても、地元テレビ局が市政○周年記念特別ドラマとかでやったらいい感じ。2時間ドラマで。生の舞台で見せられても、何か物足りなさが満載。
3)説明ゼリフが多ければいい、というわけではないでしょうが、あまりに説明がなさすぎて、物語の構造が理解できない。細川ガラシャとホーリネス派、という二つの基礎知識のない人間は特に話についていけない。ついていけなくてもいいから、知らないながらに面白い、というわけでもない。重要な(と脚本家か演出家かわかりませんが、考えている)部分については、説明してもバチは当たらない。
4)何が物語の核なのかがわからない。細川ガラシャなのか、ホーリネス派なのか。戦争の愚かさなのか、宗教弾圧なのか、自由と平等の重要性なのか、宗教的熱狂なのか、人は時代から逃れられないのだ的な名言なのか、それでも彼らにとっては青春だったのだ的な厨二病セリフなのか。タイトルに出てくる『銀の系譜』というのは、ガラシャの持っていたロザリオのことで、それがこの教会にひっそりと受け継がれていて(?)、しかもラストシーンで、ガラシャの子孫がそれを探しにやってくる、という。ロザリオのことなんて、ホーリネス派の考えが掲載された会報だか文書だかに比べたら、著しく重要性が低いのに、エンディングで重宝され、しかも唐突に出てきた子孫の手に渡ってめでたしめでたし……いやだったら、もっと丁寧にネタをちりばめないとだめじゃないの?ガラシャの子孫、出す必要あったの?ガラシャが、自分の信仰と浅井家を守るために部下に自分を殺させたことと、牧師補さんの行為の何かが重なって、「系譜」を見出せっていうことなのだとしたら、私にはよくわかりませんでした。物語を貫く縦糸が「系譜」だとしたら、それをきちんと要所要所で見せていかないと「ぽかん?」ですよ、ラストシーン。前フリなしに「ガラシャのロザリオを探していました」って、デウスエクスマキナか、ギリシャ悲劇か。
5)プロットが意味不明。ガラシャの出てくる戦国のシーンが、とりあえずいらないと思う。やるなら、説明をしてからやってほしい。説明なしで見せられて、納得できるほどのものではなかった。全部カットで……というのは言い過ぎだと思いますので、やるとしたら、解説にオーバーラップさせるとか、場面の切り替えをもう少しつながりを持たせるようにやってくれれば。あ、つながってるんですかね、戦国のシーンと、次のシーンと。だったらすいません、私にはわかりませんでした。プロット的には、ガラシャの子孫がロザリオを探しているんです的なシーンが冒頭にあって、そこからガラシャの死ぬシーン、ロザリオクローズアップ、大戦中の教会のシーンでロザリオここですよ〜みたいな流れだと客をつかめるんじゃないかと。
6)どうして「特高」を「特高」と言わないのかがわからない。刑事だけでは、普通の国家警察の刑事と勘違いする。リアリティ?そういうのは原稿用紙4000枚くらいの長編小説で追求すればいいと思います。あと、刑事のみなさんのセリフが聞き取りにくかったことこのうえない。そういう演出だとしたらすいません。そういう劇場だとしたらすいません。とにかく、何か声がこもっていて聞こえなかった。
7)登場人物が多すぎるわりに、出番の偏りがひどい。
8)春画のくだりは全部いらない。教会を捜索するシーンでも、春画は出てきやしないし。回収しない伏線を張るくらいなら、別の伏線を張ってほしいものです。
9)ヒロイン(?)の女性が、さして苦悩していたようには思えない。思えないので、牧師補さんを売るシーンにも唐突感が否めない。牧師補さんとホーリネス派の関係にどこで気づいたのか、伏線が薄い(お芝居も薄い)ので気づきづらい。牧師補さんの、女性に対する感情も、大して深さを感じない。裏切られた感が薄い。
10)笑いのシーンが、他のシーンと大してつながっているように感じない。コントを見るつもりでお金を払ったわけではないので、客いじりとかいらないと思います。
11)場面転換が、なんかわかりませんが、違和感が……途中で牧師が殺されるシーンがあったのですが、その牧師が暗転中に立ってはけていくのがもろに見えた。あれは、劇場のせいなんですかね?どうせはけるなら、刑事が引きずっていけばいいのに。そういうところは割とどうでもいいんだなぁ、と若干の興ざめ。
12)ラストシーンがよくわからない。ラス前で、緞帳を下ろして戦争中の映像を流したのですが、あそこで終わってもいいんじゃないかと思った。それか、ラストが細川ガラシャのシーンか。あのオチなら必要ないと思いますけれど……カトリックとプロテスタントがとっ散らかって認識されている、って物語の本筋にそれほど関係ありましたっけ?そもそも、ガラシャってイエズス会系で入信しているんだからカトリックでしょ?そのロザリオがプロテスタントの教会に伝わっているってどういうことなんでしょう?こだわっているのかこだわっていないのか……。
13)というわけで、一本芯の通ったテーマもなく、登場人物の苦悩が入り乱れるでもなく、ブラックな笑いがあるわけでもなく、フラットなストーリーを結構上手な役者さんたちが演じている、というお芝居だったのかなと思います。
え〜……まあ、お金(4500円)を払っているので、このくらい書いてもいいのか、書きすぎなのか。
あと、個人的な認識なんですが、日本でキリスト教が弾圧された弾圧された、という話が、個人的にはあまり好きではないんですよね。
まるで、キリスト教だけが悲劇的のように扱われますが……まあある意味ではそうか。
アルヴィジョワ十字軍で、カタリ派とカトリックの信者が同じ町の中にいることを知った司令官は、「全員殺せ。誰がキリスト者かは、神が知っている」とのたまったりしています。
悲劇的な喜劇ですな。
400年ほど前には、新教と旧教で殺し合いしてますし。
よほど日本で弾圧されたことが許しがたいらしいですが、カトリックなんざ侵略する宗教の見本みたいなものでしょうに。
個人的な認識ですので。
ここまで読んで気分を害した方には申し訳ありません。