麻耶雄嵩氏は、本格ミステリでいうと<第三世代>に入るでしょうか(新本格かな?)。
私はなぜか最初に『あいにくの雨で』を読んでしまい、結構ぶっ飛んだんですが。
ペンネームからも推察できるように、難解というか、歪曲というか、迂遠というか、激辛です。
『夏と冬の奏鳴曲』は、未だに意味がわかりませんし、『翼ある闇』はなんかもう詰め込みすぎの上にえらいことになっていて。
メルカトル鮎、大好きです(矢吹駆といい勝負の人非人ですが)。
お作は結構読んでいますが、『木製の王子』が結構好きかなぁ。
で、本作ですが、名探偵嫌い(というか諧謔の対象としてみていると思う)の麻耶雄嵩氏が産み出した超絶名探偵が登場します。
「貴族探偵」。
何がすごいって、貴族ってところからして現代日本にあり得ないのですが、執事にメイド、腕利きの運転手など有能な部下(使用人)を従えて、様々なトリックを暴くばかりか、大抵そのときに出会った女性をものにしていくハリウッド的な展開を見せる剛腕ぶり(短編だぞ)。
でも、それが埒外に似合うところがまた素晴らしい。
星影龍三のパワーアップバージョンとお考えください。
収録作は5篇で、タイトルはヨハン・シュトラウス2世の楽曲になっています(らしいです)。
「ウィーンの森の物語」は、冒頭で「糸と鍵の機械トリック」が登場しますが、こういったプロットは『あいにくの雨で』に似ているかもしれないです。
「トリッチ・トラッチ・ポルカ」はアリバイトリックものですが、こうやって世界を反転させるのだな、というお手本のような巧さと、最後に浮かび上がる真実が麻耶雄嵩節です。
「こうもり」は中編、と言ってもいいでしょう。
かなり読み応えがあります。
そしてうまい(だまされて悔しい)。
「加速度円舞曲」は人気作家が殺害された状況の奇妙さが(ひねくれた奇妙さですが)解かれていく快感が味わえるパズラー。
「春の声」は、今時まさかこんな状況が、という名家の令嬢を巡る殺人事件。
婚約者候補が殺される、というやつなんですが……あれですね、あれ、笹沢左保氏の『○○○○○』のオマージュだと思います(思い込み)。
「トリッチ・トラッチ・ポルカ」が一番面白かったかな。
本格に限らず、ミステリには世の中の毒が含まれているものなのですが、麻耶雄嵩氏は本格ミステリそのものに毒を振りかけてあるので、ときどき刺激を味わいたくて読んでしまいます。
非常に冷淡です、ドSです。
それがいいからといって、私がドMなわけではないですが。
「あなたが推理するのではないのですか」
思わず正津が探偵に訊ねると、彼は意外そうな表情を見せた。
「まさか。どうして私がそんな面倒なことを? 労働は家人に任せると先ほど話したばかりでしょう」
「そうですか……」(p55)
「貴族探偵」の一番すごいところは、「自分で推理しないところ」です。
だって貴族だもの(みつを風)。